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ゴンドゴロ・ラからK2⑩ ゴンドゴロ・ラ 挫折(20100808) [ゴンドゴロ・ラからK2へ]

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12時に出発。深夜なのに生暖かい。これは明らかに不吉な予感だ。真っ暗なので何も見ること出来ないが、重く雲が垂れ込めているのは分かる。その上寒くないと言うことは雨が降るリスクにつながる。ヘッドライトにダウンジャケット、スパッツ着用という高度登山向けの出で立ちで湿雪を踏みしめて先に進む。まずは稜線上を一気に高度を上げていく。しばらくすると後ろからかすかな声が聞こえてきた。「水を忘れているよ」との声だった。慌ててレスキューが折り返し、走るようにして声のある方に向かった。
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取りあえずはリスクもないので、レスキューなしで前進する。レスキューはあっという間に水を手にして戻ってきた。傾斜の緩い、雪が積もった氷河の上を歩いているようだ。湿雪で時には膝まで踏み込むこともある。前を歩くガイドの足跡をたどる方が踏み固められた上で歩きやすかったり、時には絶える限界にあった踏み跡だとズボッと潜ってしまうこともある。大した登りではないが、足場をどこに置くか予測するのが大変。しばしば予測違いがあってイライラしてしまう。
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12時45分一息入れる。レスキューが先行してルートの確認に行った。戻ってきて早速前進だ。足元に時々クレバスが口を開けているが、日中の印象とは違ってそれほどの恐怖感を感じない。視界が悪いと言うことは見えなくて恐怖を感じてしまう事もあるが、見えなくて恐怖を実感しなくて済むというメリットもある。ガイドから足元に注意するよう言われて慎重に前進する。
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1時半標高4900Mを超える場所で一息いれる。霧雨がしとしとと降り始める。空を見上げると雪が反射して灰色の世界を作っていて多少の明るさを提供してくれる。ゴンドゴロ・ラはどこだろう、と聞くと、左手だと言われた。キャンプからほとんど直進してきたとすればそうなる。2時には標高5000M地点を通過。

ルートを左に切り、凹凸のある急斜面を登り始める。ストックに体重を預けて急峻な登りを喘ぎ喘ぎ一歩一歩前進。2時半、数メートルある岩の陰で一休み。すでに標高は5200M地点に届いている。ところが、レスキューがいつもと様子が違うのでルート確認で上を見てくると早足に登っていった。

しばらく無音の静寂のなか、ガイドが持ってきてくれたテルモスを開けてコーヒーを差し出してくれた。こんな時には温かい飲み物が最高だ。ぐうっと一飲みで飲みたい気持ちを抑えてちびりちびりと大事に味わう。

数十分はたっただろうか、ガイド達が大声でレスキューに声を掛け続けるが何の反応もない。ただの休養かと思っていた私にも異常事態のリスク、不安が過ぎり始めた。「何か起きたのか」とガイドに聞くと、いつもなら補助ロープがあるはずなのに見つからない、もしかしたら誰かが外したのか、とても不思議だと言ってレスキューが様子を見てくる、と言っていたそうだ。

無音の時間がしばらく続き、突然雪を踏みしめる音が上から聞こえレスキューが戻ってきた。待ち構えていた全員が大声で”どうだった”と詰問している風だ。ところが悪びることもなく「ルートを間違えたらしい」と一言。ガイド達も呆れて私にこのまま待ってて下さい、と言って再びルート探しに出て行った。しかし真っ暗な中で見つかるはずがない。

私としてはここに至って何が起きてしまったのか、ようやく現実が理解出来、同時に強烈な怒りと落胆が襲ってきた。日本を出る時の最大の目標であるゴンドゴロ・ラ越え、しかも今まで経験していない5700Mの高度体験を達成するために全ての準備と体調維持をぎりぎりで追い詰めてきたのに。
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いずれにしてもこの場で解決出来ないのは確かなので、下山するしかない。下山はクレパスだけに気をつければそれほどの負担にはならない。気がつくと霧雨が雪交じりに変わっていた。ダウンもじっとりと濡れてきた。

この天候具合とこのいい加減なレスキューで明日再チャレンジすることへの逡巡が頭を過ぎり、この先どうしようかと反芻していたからか、あっという間にキャンプに戻っていた。

テント内ではルートを見失ったことでガイド達とレスキューで激しい口論が始まっている。日本語ガイドは私の気持ちを代理してひときわ激しく追求してる。やり取りの内容は全く理解出来ない。何が事実かは不明だったが、ガイドの説明ではレスキューが偽者で現地事情に精通していないとのことだった。しかもその背景にはこのレスキューを手配したポーターリーダーが仕組んだ詐欺ではないかとまでいいだした。その理由はレスキューには高額の料金を支払うことになっているのだが、それを狙ったポーターリーダーが偽レスキューとつるんでシェアする、そんなやり取りがあったという疑いがあると言うことになった。事実は最後まで分からなかったが、そう考えることで割り切ることでこの憤りを落ち着けるしかなかった。

どのような経緯があったとしても、プロとして雇用したのだからそれにはしっかり答えてくれないと。そんなことで私の目標をこんな形で断念させられるとしたらなにをか況んやだ。

私としては同じレスキューで再チャレンジは出来ない、なんとか別のレスキューを探してくれるよう頼んだ。また今日のレスキューには対価を払わないで欲しい、と伝えた。すぐにガイドは新しいレスキューを探しに下のキャンプに下りていった。

夕方には新しいレスキューを連れて戻ってきた。新しいレスキューは服装からしていかにも登山経験豊富という出で立ちだ。昨日のレスキューとは存在感が違う。

しかし新しいレスキューはなんとか雇えたものの天候は相変わらずで雨が激しくなるわけではないが、雲はますます厚くなり、再チャレンジには悪条件になっている。
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テント内でガイドと状況判断を話し合った。確かに5700Mという標高踏破も目的ではあるけど、そこでの眺望が出来ず写真も撮れないようでは行く事の意義はない、しかしここで断念すると二度とチャレンジできない、そんな狭間で難しい判断になった。ガイドからはこの天候では100%視界が回復する目処はない、と断言されたので最終的には断腸の思いで中止を決意した。明日には下山する決断をする。
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何度も「何が理由でこのような事態に至ったのか、原因究明しなければ」、「スタッフィングをコーディネートした信頼していたエージェントにも責任追及をしなければ、」あれこれ考えの堂々巡りをしているうちに、いつの間にか寝入っていった。
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