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バルトロ氷河とK2⑯ コラフォンからスッカルド(復路)・完 [バルトロ氷河からK2へ]

8月7日(木) コラフォン~アスコーリ~スッカルド

ここのテントサイトは木立があり、明るい時には心の安らぎを与えてくれるが、夜陰が迫るとむしろ不気味さを感じる。特に人の気配があってもおかしくない雰囲気だ。そんなこともお構いなしに静寂の闇のなか早々と睡魔が襲ってきた。テントの設営に問題があったのか、背中に石があたって寝苦しい。最後のテント生活で興奮しているのか2時に目が覚めてしまった。テントを出て夜空を眺めると満天の星だ。見事すぎて星座の区別がつかないほど。星雲も見られる。木立が何気なく不気味な恐怖心を煽る。テントに戻るがなかなか寝付けない。ウオークマンを出してモーツァルトのシンフォニーを聴く。澄み切った音が耳奥に響き渡り、再びいつの間にか寝入っていた。
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6時半に出発する。しばらくはフラットなトレイルを進む。ビアフォー氷河とブラルドゥ川の合流、瓦礫が押し出されて突堤状になっている壁を右手に見ながら砂地で脹ら脛に負担がかかる歩行になる。7時半にはビアフォー氷河の一番右手に氷河の水を集めて轟々と流れる川にかかる吊り橋を渡る。かき集められた水は行き先を奪われてお互いがぶつかりあって逆巻きを作ったりしている。その様は迫力満点だ。
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対岸を進むと山肌が迫り岩場を高巻きする。さすがに肉体的に疲労困憊の極致なので、たかが高巻きと言っても堪える。高巻きを下るとブラルドゥ川に突き出した尾根の下を回り込み、前方に緑に包まれた集落が目に入る。ようやく終着地アスコーリだ。対岸にも緑に包まれた集落も見える。なだらかな道をだらだらと進むが、集落の中心にはなかなか届かない。右手の岩陰に勢いよく水が迸って落ちている。そこでは我々のポーターも含めて村民達が頭を洗ったり、気持ちよく水浴びをしていた。ガイドも気持ちよさそうに喉を潤していた。

9時20分に往路でテントを張った出発点にようやく戻る。入山管理をしている建物に入ってミールさんと椅子に座り、ガイドの情報収集を待つ。ヨーロッパからの20人近い集団が入山登録のためにパスポートを手にして行列をしている。言葉の響きからラテン系、おそらくスペイン系ではと想像された。シェールが帰ってきた。彼のもたらした情報は想像以上の悪い話だった。

分かったことは間違いなくアスコーリから1時間程度歩かなければならない、その先でジープに乗れるが、そのままスッカルドに戻れる可能性は儚い夢であることが分かった。通信手段が無い状態では人の話が頼り。伝言ゲームと一緒で情報が歪んでしまい事実が曖昧化する。まずは先に進むしかない。

10時10分先の見通しが見えない不安を抱えて出発する。村の人だろうか、ガイド達になにやら話しかけて、急坂を転がるように下っていく。往路ではポーターが「車から降ろされて登った急坂だ。今日は一台の車もない。激しい夏の日差しが容赦なくさしこんでくる。買い込んだミネラルウオーターで喉を潤す。途中から村人の使う近道なのか、右に逸れて岩場を慎重に下ることになった。ここに来て再び緊張する場面だった。一気の下りが終わると再びジープ道に戻り、しばらく行くとブラルドゥ川の河原が近づいて来た。水平道路になり、時にはブラルドゥ川の飛沫を受けるほど近づいたりする。確かにジープ道は崩壊しいしていた。

何人も現地の人々だろう忙しく行き違った。積み上げて作られた堤防が見事に抉られている。目標の見えない歩行は平坦と言っても辛い。ブラルドゥ川の水面に沿って下る。11時半若干の登りの先に木立に覆われた、大勢の人の行き来が視界に入った。トゥンゴルという集落だ。車も視界に入る。ホットした瞬間だ。

現地の重要な交通手段になっているロバや小振りの馬が行き来して慌ただしい。車はあったが、さて、それを手配できるのか、その先ジープでどこまで行けるのか、まだまだ先行き不安は拭えない。大きな木立の下にミールさんがシートを敷いてくれた。腰を下ろしてのんびりと周囲の動きを観察する。あどけない子供達がロバの騎乗練習をしているのを親父が愛情溢れる笑顔で見守っている。

なかなか交渉は捗らないらしい。この先ふたたび橋が流出してしまってので徒渉するらしい。このような緊急事態になるとジープの所有者の立場が一転して強硬になる。シェールは厳しい顔で激しく交渉を重ねている。最後は決着がつく前にジープに乗り込めとの指示があった。やり取りを無視して乗り込む。結局は料金で手を打ったのだろう、シェールは怒りの顔を露わにしていたが、取りあえずは先に進むことは出来た。
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深い轍に右に左に降られながらおんぼろジープはそろそろと動く。それほど乗ったとは思えないうちに突然駐まる。川が左にU字状にうねった先でそこに流れ込む川に行く手を遮られた。このジープはここまでだ。崖から岩が落ちて道を塞いでしまった。その先にある激流をどのようにした渡るのか不安になった。増水した流れに足場が水面下にもぐり足場が見えない。ポーター達にも怯んでしまう者もいた。
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ガイドのシェールが先ず先に進む。はらはらしたが、さすがに見事な徒渉だ。ほとんど水に濡れずに対岸に渡った。その次は自分の番。シェールは最後の足場が大きな歩幅になるので対岸に転がっている大きな石を投げ込んで安定するよう移動させてくれた。四の五の言っていては先に進めない。覚悟を決めて一歩一歩水を被っている足場を頼りに徒渉する。最後の足場がぐらついた瞬間は冷やっとしたが、ストックでバランスを取り辛うじて転倒を免れた。シェールも対岸から手を差し伸べてくれたが必要なかった。

次々とポーター達も足場伝いに、あるいは中には激しい流れの中に腰まで浸かってそろそろと徒渉するものもいた。なんとか全員何のトラブルもなく、徒渉を終えて先に進む。この先は往路でも車を降りざるを得なかった崩壊現場を通過する。その間の道のりはだらだらと長かった。炎天下の緊張のない歩行は堪える。だんだん川面が眼下に移る。いつの間にか断崖絶壁の中腹を歩いていた。ブラルドゥ川は激しい激流となって行き先を失い、流れが流れとぶつかり合って白い飛沫を上げている。

1時間弱の歩きだっただろうか、ようやく橋脚が壊れて傾斜した橋を渡ってジープが何台もプールされている場所に辿り着く。再びどのジープになるのか、やり取りが始まる。一旦乗り込んだジープが我々メーンバー全員と荷物が載らないことに再度やり取りが始まった。結局ポーター達は下山途中の集落で降りることもあり、2時半に2台に分散して乗ることになる。

思いがけないトラブルのため昼ご飯は3時過ぎになった。往路でも寄ったレストランに入る。ここには多くのトレッカーが寛いでいた。リンゴの実がなっている庭先でカレーを注文する。4時前に出発し、谷間を縫って道は何度かのへピンカーブを登ったり下ったりしてスッカルドに進む。左右の急峻な山肌にほぼ水平に白い帯状のラインが走っている。所々に穴があいているのだが、そこが採掘場あるいは採掘場の跡になる。カラコルムは貴石や半貴石の産地だ。ガイドのシェールも遊び半分で見つけるそうだ。
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右手から川が合流するするころには川幅は広く、対岸までの距離は1キロ以上になるほどだ。山は両側に遠のき、平坦な地形が耕作地として提供されている。しかし、道は相変わらずというかむしろ工事途上ということもありかえって悪路になっている。シガールまでもうじきと言うところでポーター達は全員降りた。しばらく行くと運転手が親戚の家の前で車を止めて挨拶が始まった。

すると家族全員と思われる老若男女が車に近寄ってきた。主だろう、一言「ちょっと待ってろ!」と言って果樹園に足を向け、撓わになっている杏子をもぎ取ってざるに入れて家の中に入っていった。水で洗って是非食べろ!美味しいよ。と言うことになった。一つ口に入れたが、なんと美味しいことだろう。喉も渇いているので次々と咥えて食べてしまった。洗った水が綺麗かどうかは今やどうでもいい。標高の高い当地とかフンザでは今が杏子の美味しい季節になっている。
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暖かい歓迎に心の交流を実感したが、子供達のくったくない姿を写真に納めようとしたら、男の子はむしろせがむようにポ-ズを取ってくれたが、イスラム教の世界だから女の子はカメラを向けたとたん家に一目さんで走り去った。
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シガールはパキスタンでも有名な避暑地だ。もともと英国の占領が行われるまでは王国があった町で、大変美しい。丁度夕日を背に逆光になった川面が陰影を深めてまるで水彩画のようだ。シガールのあるフォートに立ち寄る。フォートは町から坂道を登って山の斜面に沿って作られている。今ではカーン財団のもとにホテルとして運営されている。入場料を払うと中を見ることが出来る。
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シガールから峠を越して一気にインダスに向けて下る。7時過ぎにインダスに架かる橋を渡るとスッカルドの町だ。8時にはホテルに到着して、遅い夕ご飯、久しぶりの本格的な料理に舌鼓をうつ。

長~い2週間のk2トレッキングの終わりを、インダス川とシガール川が目の前で合流する、思い出を穏やかな静寂の中で反芻している。夜空にはきらきらと星が美しく煌めいていた。次にこのような夜空を見られるのはいつになることだろう。
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