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ヒマラヤトッレキング・・⑦RENJO LA越えでゴーキョへ(エベレスト,ローチェ、マカルー、チョオユー) [ゴーキョー]

10月29日(土) ランデンからゴーキョへ

今日は長丁場のトレッキングと5340Mの高度越えという一番の難関の日だ。ヒマラヤの地勢からしてやむを得ないのだが、どのルートをとっても一番高いところを挑戦する日がアップダウンが大きく厳しいことだ。それに備えて4時にたたき起こされた。先ずはヘッドライトを頭に回しパッキングの準備だ。暗い中だからなかなか捗らないが、手探りをしながらしっかりパッキングしなければならない。
外に目を向けると満天の星だ。こんなに星の数があるのかと言うほど一面に輝いている。星雲が見られるし、当然天の川も。都会ならひときわ明るい星を辿るだけで星座を識別できるのだが、ここではあまりに多くの星が有りすぎて難しい。昨日登ってきたトレイルを振り返ると両側の山が迫りV字谷の向こうには白み始めた空を背景に山が浮き立っていた。しばらくするとポーターのパッサンがお湯を用意して洗面器を持ってきてくれた。ストーブにかかっていたヤカンのお湯に水を入れてくれたのだ。さすがにとても当地では水だけでは顔を洗う気になれない。お湯で顔を洗ってさっぱりする。

昨晩は激しい下痢に悩まされた。この症状は自分だけではなく、全員が体調不良になっていた。トイレに何回行ったかのかが朝の挨拶代わり。幸い高山病の気配ではないのでホットしたが。今回初めての面々は睡眠誘導剤アモバンのお世話になって寝たそうだ。そして高山病予防のためにダイアナモックスを飲んでもらった。 今朝は体調が悪いので胃の負担を軽くしようと思うまでもなく、食べようにも食べられないので食事はコックの作ってれてたみそ汁にお粥だけで済ます。

早い出発を予定したが、結局は6時10分になってしまった。多少は明るくなったとはいえ未だ寒い。指先が痛くなるほどだ。幸い風がないので体感温度はさほど下がっていないのだが・・・。周りはカルカ(牧場)になっていて幾つにも分かれた囲いの間を縫って先を急ぐ。 後ろを振り返ると真っ白の山、ヌンブル(6959M)が美しく目に入った。道に迷うことがないと云うことで準備が出来た者から先に進むよう指示があったので三々五々の移動になる。6時45分、後発になった仲間達と合流するために待機する。 太陽はまだ稜線の向こうなので薄暗い状態。カルカは未だ続く。チベットに続くボテコシは遙か彼方の下を流れている。さすがに4500mを越えた登りでは息が上がる。7時15分4600M地点を通過。左手に石を積んだだけの番屋がある。よく見るとこの小屋は集落へ水供給のために水源から誘導する基地になっているそうだ。ようやくその頃には身体が暖まって指先の痛みが気にならなくなっていた。山のピークに朝日が射して白い雪が赤みを帯びて美しい。

7時20分小休止。平坦な登りから尾根状の登りに変化する。レンジョ・ポカリまで尾根の上を登っていくことになる。まだ、ボテコシの流れとチベット街道の道が見えているが、これから先は一気に右のピークに向けた登りなのでボテコシともそろそろお別れだ。この先もさほど急峻ではないが、酸素の少ない高度ではタフな行程だ。早朝に比べれば多少風が出てきて身体から体温を奪っていく。4630mまで登ってきた。 7時35分平坦なところを喘ぎ喘ぎ登る。稜線から朝日が昇り少しずつ暖かさの恵みを与えてくれる。太陽に感謝。

7時45分、左手に水が涸れて小さくなったポカリと雨期になればポカリになると思われるフラットな窪みがある。こんな高山にも数頭のヤクが居たのにはビックリ。8時15分眼下にポカリを見ながら稜線上を歩く。所々に今年の新雪が残っている。4760M地点を通過。しばらく稜線の陰に隠れていた太陽が再び差し込んで来た。8時半再び稜線からフラットな形状の所に出る。再び涸れかけたポカリが右に見える。4800M地点を通過。下を振り返ると水が涸れかけた小さな池が見えたが、地図を取りだして確認して分かったことはこれぞレンジョ・ポカリだった。ガイドブックにはレンジョ・ポカリがポイントとして記載されていたので、もう少し大きなポカリを想像していた。 8時40分、レンジョ・ポカリよりもはるかに大きいレラマ・ショの湖畔に着く。広々とした空間はまるでクレーターの中にいるようだ。

前方はまるで千畳敷か唐沢の屏風状の山が聳立つ姿に似ている。ここで大休止。移動中には強風に曝されて寒いこともあったが、ここではすっかり風もおさまり、音の全くない完全な静寂の世界になっている。8時55分出発。

9時10分には前方聳立つ岩峰のいくつかあるピークとピークの間にタルチョーがはためいているのが辛うじて目に入る。これが今日の最大の難関、レンジョ・ラ(=パス、5340M)だ。9時30分から10分間アングラヅンバ・ショを見ながら休憩。この湖もレンジョ・ポカリより遙かに多くの水を湛えている。9時55分、4900M地点で休憩。右手の聳立つ山は真っ白な雪を被っている。10時10分小休止。4940M。 10時20分出発。ここまで来ると酸素が平地の半分だから歩くにも長続きしない。一寸歩いては休憩の連続。沢に向かって下りた後、流れが凍った足場を歩き、時には表面が氷で覆われた岩を手づかみで登ったり、足元が滑り身体を安定させるのに四苦八苦しながらの歩行が続く。雪が岩肌を覆っているので、ただでさえ酸素不足で身体の自由が利かないなかだから大変だ。再びさっきの湖が見える。

11時40分直登からトラバースになる。レンジョ・ラ(パス)にはためくタルチョーが手の届きそうな所まで来たが、それがなかなか先に進んだ実感にならない。5150M地点の鞍部で風を避けながら昼食だ。正直言って食欲は全くない。ダワさん達が作ってくれたサンドイッチを手渡されるがボソボソなので喉を通らない。テルモスの辛うじて温かさが残っているお湯を啜りながら少しは喉を通したが無理だ。2枚だけビスケットを無理矢理口にこじ入れて多少の栄養を補給。一寸休んでいるだけで体の芯が冷えてくる。 12時15分峠を目指し出発。本当に近くに見えるのにあと1時間ぐらいはかかるだろうとダワさんは言っている。手が届きそうなのに「本当?」と聞き返したくなる。エベレストや6000m以上の山をアタックした人たちの手記には一歩一歩の重さが書かれているが、その比ではないかもしれないが、それを実感している気分だ。喘ぎ喘ぎ九十九折りの最後の急登を残された体力を振り絞って意地になって登る。本当に数歩行っては休み、数歩行っては休みだ。呼吸も大きく3回吸って2回吐くをしっかり意識してしないと辛くなる、それでも足は息苦しくて鉛のようになってしまう。

あと一瞬でレンジョ・パス。最後の重い一歩を岩にかけた瞬間、今まで目の前を遮っていた岩肌が無くなり、無限に拡がっていくと錯覚されるほどの空間が拡がった。レンジョ・パスの先はゴーキョに向けて直下する谷、その先には待ちに待ったエベレストの勇姿が雲一つ無く浮き上がり、ヌプチェを従えその奥にはローチェが、その右手にはマカルーが、さらにずっと右に目を振るとチョラ・チェやタウ・チェが、またエベレストから左手にはカッチュン、ガチュンカン、そしてチョオユーと言う壮大なパノラマが拡がっている。
疲れを忘れてはしゃいでしまうほどだ。眼下にはカール状に雪に覆われた谷がドート・ポカリに向けて落ち込んでいる。その湖の先には砂に覆われたンゴズンパ氷河がチョオユーに源を発し横たわっている。この世の景色とは思えない素晴らしい景色だ。幸運にも午後を回った1時というのになんと澄み切っていることだろう。重い荷物になる事を覚悟で持ってきたカメラを出して撮りまくる。仲間達との記念撮影も。パスを現地語ではラと読んでいる、峠を意味する。当然風の通り道だから強風が通り抜ける。頭の上ではタルチョーが千切れんばかりに音を立ててはためいている。幸運を祈るタルチョーに乾杯。

いつまでもここにいたい気持ちだが先を急がなければならない。1時25分出発。ここからの下りはガレ場で雪が凍った場所もあり、滑落しないように一歩一歩足元を確かめて下山する。下山は登りよりも危険が伴う。そして経験の差が出るところだ。低酸素、寒さ、疲れと全ての条件が悪い。低温障害か体調の悪い仲間が出てガイド、ポーターが前後左右を支えながらゆっくりとしたペースで進む。頭痛とか吐き気などの症状がないので重度の高山病ではないらしいが、明らかに高度障害が出たようだ。
レンジョ・パスを越えてからは日陰になるのと吹き始めた風で体温が奪われるので一層寒さを感じるが、天気は幸い夕方まで持ちそうだ。身を引き締めて一歩一歩下りよう。九十九折りのルートを確実に高度を下げて行く。 1時45分急峻な下りが終わりフラットな台地に着く。ここには小さなポカリがある。チョオユーとそれに繋がる山は視界から消えたが、まだ、レンジョ・パスでの眺望がそのままだ。見残しのないようもう一度しっかりと目に焼き付ける。そして改めてここでもエベレストを背景に記念撮影だ。全員の目には達成感と安堵感がうかがえた。

岩場のなか急な下りの後に台地が現れる、それを繰り返えすが、手が届きそうなゴーキョは見えてもなかなか近づかない。陽が稜線の向こうに落ち始めると温度が急速に下がってくる。寒い。稜線のカゲになったドート・ポカリがコバルトブルーから黒みがかった青に変わり、不気味ささえ帯びてきた。左手前方には明日登頂する予定のゴーキョ・ピークが見える。エベレスト、ローチェも視界から徐々に消えてたが、ゴーキョとカラ・パタールの間にあるチョラ・チェやタウ・チェが見事な姿になって近づいてくる。右手にはレンジョ・パスから派生した尾根がゴーキョに向かって延びている。山肌は最近積もったのだろう純白な雪だ。 気がついてみればトレイルの周辺から雪はすっかり消えていた。トレイルは少しずつ傾斜をゆるめ、ゴーキョ・ピークのなだらかな斜面を横切るようにして下る。右手にはドート・ポカリが右手眼下に広がってきた。遠くにトレッカーの姿が見える。ゴーキョ・ピークから下山してきているトレッカーだ。今日初めて目にした我々以外のトレッカーだ。今回のトレッキングコースはゴールデン・シーズンでもトレッカーで賑わうことはない。エベレストエリアにしては人の気配のない素晴らしいトレッキング・ルートだった。

ゴーキョピークの裾野までようやく下りてきた。既に5時だ。辛うじて残照で明るさを保っている状態。足元も薄暗くなっている。ドート・ポカリに流れ込んでいるコーラを石伝いに渡りゴーキョのロッジに着く。ドートポカリに面したロッジが今晩の宿だ。チョオユービューロッジと書いてある。左手にはロッジの名前の通り雪煙の上がっているチョオユーが望めた。我々の先を急いで先発したポーターが既に手配してくれていた部屋に入る。部屋は既に真っ暗だ。体調の悪かった仲間は先ずは安静と云うことで部屋で横になる。

他人事ではない。自分も体調は最悪。食欲は全くない。私だけではなく、全員が同様な状態だ。高度障害と限界を超えた疲労感そして最大の難関であり今回の全ての目標であったレンジョ・パスを越えられたことでどっと疲れが出ているのかもしれない。6時半取り敢えず少しでも口に出来るものを食べることにする。お互い話すゆとりもなくそうそうにシュラフに入る。7時半だっただろう。さすがに寒い。着られるものを着込んで自分の体温でシュラフを暖めながらいつのまにか寝入っていた。


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コメント 1

マンゴー

体調も良くない中で、寒さと低酸素という過酷な条件の中を一歩一歩
進んでいく力は、どこからくるのでしょうか。
そこまで追い詰められると最後は精神力でしょうか?

ヒマラヤ山系の最高峰であるエベレストのアップの写真をみると
圧倒的な強さを感じました。大きく立ちはだかっているような・・・・
by マンゴー (2006-03-27 23:02) 

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