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⑫ヒマラヤ・トレッキング(アンナプルナ・アラウンド)(2004年11月) [アンナプルナ]

11月17日(水)  ムクティナートからマルファへ

6時起床。村人が時々慌ただしく行き交うだけで未だ静かに眠った街だ。集落の屋根越しにダイラギリが朝日を受けて金色に輝いている。

ホテル前にある家と家の間を抜けて裏庭に回る。そこからは遮るものがなくダウラギリが見える。見事な姿だ。三本の襞とその間を氷壁がかためている。7時を過ぎる頃には多くのトレッカーが急ぎ足で下山し始めた。 我々はのんびりと7時45分に出発。それにしてもこんなにトレッカーがどこにいたんだろうと思うほど続々と下山している。ラッシュだ。ひたすら全員が下山。集落がしばらく続く。8時にはチベットを彷彿させる(想像だが)ジャルコットの街に入る。ここでも上空をレスキューのヘリが飛び去って行った。高山病の患者を救出するためだろう。 8時50分集落から離れて、街道だけが一本走っている単調な風景。土と砂以外には何も存在しない殺風景な景色。対岸には人工的に彫られたような筒状に彫り込まれたような断崖が眼に入る。殺伐としたチベット的な景観だ。

前方にはムスタングを源流とする川が視界に入る。ムスタングに続く道も見えてきた。眼には入らないが谷底にはカグベニの街があるそうだ。前方の稜線越えにダウラギリのピークだけがのぞいている。カクベニにはムスタングに入るゲイトがあってそこで入域料を支払わなければならない。そばの栽培が盛んなところだ。我々はカグベニを経由せず直接ジョムソンの街に向かって下山する。この時間になるとカクベニから上がってくるトレッカーが増えてきた。登りは負担を避けてカクベニ経由、下山はほとんどのトレッカーがジョムソンへの直接下りている。 支流のジョンコーラはカリガンダキ川に合流してトレイルはカリガンダキの断崖上を下山する。道幅は広い。さらに一気に下山する。カリガンダキ川の源流はチベット国境近くにある。カリガンダキ川に沿ってチベットへの街道があり昔から最も繁盛した街道の一つだ。この歴史の重みが当地方の豊かさにもなっているのだろう。今まで行ったランタンとかソル・クーンブ地方と比較して物資の豊かさに明らかな差がある。

10時10分エクリバッティに着く。小休止。大勢の荷物を運ぶ現地の人々、そして白人のトレッカーが一息入れている。25分に出発。ここでカグベニ経由のトレイルと合流してカリガンダキ川の河川敷を平坦な道が続く。しばらく行くと左手から大きなコーラが入り込んでいる。広い河川敷は砂と石で敷き詰められている。今は乾期で水量が少なく河川敷をそのまま歩けるので肉体的には大変助かる。よく見れば山側にはアップダウンを繰り返す山道が続いている。それが雨期の道だ。今は乾期、疲れているので川面のトレイルは助かる。河川敷が広いのでダウラギリを見ることがまだ出来る。その広い河原をポニー・キャラバンが遡上してくる。

頭に飾りを付けたリーダー格のポニーが先導している。河原を走るブルトーザーが走っている。道が都会から続いていないのにどうしてしてここにあるのか不思議だ。騎馬に乗った若者が睥睨するように走り去っていく。騎馬民族の血がそうさせているのだろうか。10時50分小休止。11時15分遙か彼方にジョムソンの街が見える。河原を仮設橋を渡って河川の右に左に道を探しひたすら下流へ向かう。11時55分大きな集落のジョムソンに着く。柳の並木が並び、久しぶりの大きな街だ。上空をポカラからの飛行機が飛んでくる。ここから飛行機でポカラに40分で帰ってしまう安易な帰路も考えられるが、ここは初志貫徹、踏破に挑戦だ。

橋を渡り街の中心部に入る。道は石畳になっている。ここまでは風を感じなかったが、俄に風が強くなってきた。確か、ジョムソンのフライトは風でよく欠航すると聞いていたが、それを実感する。カリガンダキ川上流の最大の街、ここには銀行、病院などがある。軍隊のチェックポイントもある。トレッカーを検閲というより自国民の不満分子への牽制が主目的か。ガイド、ポーターは荷物をしっかりチェックされているが、我々は何も検査されずにそのまま通過。ダワさんから先に行くよう指示されてゆっくりと先に進む。今度はACAPのチェックポストがあって入山許可証などのチェックを受ける。街の外れに飛行場がある。足早に急ぐ外人が多い。おそらく飛行場に向かう人たちだろう。飛行場の前にあるレストラン「サナーズ」に入る。とてもネパールとは思えない高いアメニティーを持ったレストランだ。外人好みの店作り、そして食べて分かったことは味も我々の口に合う水準だった。一寸だけ気位が高く、都会風気取りだ。幾つだろう、ませた子がウエイターをしている。店を仕切ろうという思いが強く出ていてその背伸び意識が可愛い、こんな仕草が出来ると言うことはオーナーの子供、年格好は中学ぐらいか。雇われ人とは違ったプライドが伝わってくる。レストランはサンルーフ状になっていて、滑走路越しにニルギルの山々が見える。残念だが水蒸気が上がって靄っているので、ガラス越しでの撮影が難しい。ツナサンドとマッシュルームスープを食べる。2週間以上のトレッキング後だからと言うこともあるが、否、カトマンドゥの街と比べても上等な味だった。

1時40分出発する。左手に滑走路が右手にはミュージアムを見ながらジョムソンの街を後にする。石畳が美しい町並みだが、午後ともなるとますます風が強くなってくる。町はずれでダワさんが地元住民に声をかけている。正式な道は右手山側にあるが、乾期なので河川敷で歩ける道がどのような状況か確認しているようだ。結局河川敷のルートが歩行可能とのことで流れに点在する石を渡り歩きながら河川の中央部にある中洲へと足を進める。何度か仮設橋を渡り左岸へと移動する。 ここから今晩泊まるマルファはそう遠くない。2時50分マルファの街の入り口に入る。綺麗に組み込まれた石畳の道を進む。右側にはそそり立つ山肌が迫り、山腹にはゴンパがあった。街道の両側には迫るようにして商店が軒を並べている。トレッカーを狙った店作り。とても美しい町並みだ。ただ、夕方ともなるとポニーの糞が散乱しているので足下には気をつけないといけない。3時に街道左側にあるホテルに入る。中庭のある小綺麗なホテルだ。

そういえばピサンで会ったポカラ在住のJICAに勤務する50代の男性と40前後の女性と会話をする機会があった。彼らからはジョムソン街道随一の美しい街マルファに是非立ち寄るよう進められていたが、まさにその通りだ。そしてマルファは日本人にとって忘れられない街でもある。川口彗海が明治時代に潜伏し、鎖国下にあったチベット入りを準備した街としても知られている。今でも当時川口を匿って支援してくれた一族が記念館として彼の生活そのままを残していてくれる。全くのボランティアで入場料を取るわけでもない。

荷物を置いて記念館に向かう。記念館の表示はあるものの無人だ。ダワさんが近所の人に管理人の家を聞き、声をかけて入れてもらうことになる。可愛いお嬢さんが案内だ。話さなければ日本人と間違うぐらいだ。門を入ると中庭があり、それを囲むように3階建ての建物だ。今では一階は鶏の寝床になっている。急な階段を上り、2階には川口がお経を学んだ時の蔵書や着衣が整然と飾られている。30分も見ただろうか、礼を言って辞す。ホテルを経て戻る途中左手に分岐する道がある。ダウラギリへのトレイルだ。ダウラギリはトレッキングには向いていないとか。ダワさんによればタフなルートの割に山の景観を堪能するロケーションが少なく、さらに近づこうとすれば高度な技術を要するそうだ。 さらに、道を戻る形で上がっていくと左手にゴンパの入り口だ。

突然、ロバに乗った日本人女性が近づいてきた来た。そうそうピサンであったJICAの方だった。ロバでジョムソンまで戻るそうだ。 マルファを象徴するゴンパが左手斜面上にある。ゲートがくぐり左手の山の斜面にあるゴンパに向かって重い足を持ち上げるようにして登る。寺院は下段と上段に別れていて下の方では10歳ぐらいだろうか、可愛い坊やが一所懸命老僧から経の勉強を授けてもらっていた。

直向きに脇目もふらず、遊び盛りなのにと余計な心配をしてしまう。上段には祭壇と修行の場が有る。それほど大きくはないが立派な本堂だ。けばけばしい朱色に彩られた仏像が並び、曼荼羅の壁画が一面に描かれている。さっき修行僧に経を教えていた僧が説明に上がってきた。ダワさんの通訳で問いかけたが、ダワさんも僧の言葉が地方訛りが強すぎて、十分に会話が成立出来ないほどだ。8歳で入門し、その後は世俗との交渉を殆ど絶って修行に努めるので、ネパールの標準語を学ぶ機会もなく、方言そのままでこの年になったとダワさんは言う。 いつものように午後は風が強く、眼下に広がるマルファの街の造りにその風との戦いを知る。街はまるで地下都市のように屋根で町中が覆われた形になっていて、生活はその下で風の影響を受けないように作られている。そういうことでホテルに居ても全く風が強いことを意識することがない。街道沿いにはトレッカーを対象とした店や裁縫屋、食料店などが軒を並べている。

夕食はマッシュルームスープとヤク肉入りのカレーにする。肉が固く噛み切れなかったのはいただけないが、美味しい夕ご飯になった。ダワさんとタトパニの先のルートについて相談する。出来ることならアンナプルナⅠ峰を見たいので、ゴレパニからプーンヒルを経由してポカラに出たい。体力的には3000m強への登りがあるのでタフだ。8000mを越えるアンナプルナⅠはそこからでないと見ることが出来ない。一応日程的にはそのコースも可能という事だった。後はタトパニについての体力との相談と言うことになった。ホットシャワーも温度も下がることなく快適に使えた。7時半には就寝した。


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