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インダス川を遡行して・・ナンガパルバットとバツーラ⑧ [ナンガパルバットとバツーラ]

8月3日(金)ヘッリンコッファーからラトボへ

DSC_2261a.jpg 幸い激しい雨も朝方には上がり、5時20分に起きる。テントから出ると雲間からナンガパルバットのピークが一瞬覘くが、直ぐに雲に隠れてしまう。安定しない気流の流れだ。 草地ではゾッキョ(現地ではペッパーと呼ばれている)が長閑に草を食んでいる。 8時20分出発。しばらく歩くとバジン氷河をトラバースする。氷河はどこでも歩きにくい。時々刻々地形が変化する動きに瓦礫、土砂が折り重なり作られたコースは否が応でも右に左に振られながら約50分かけて渡り終える。

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モレーンを越えると歩きやすいルートに変わる。9時50分眼下に緑豊かな谷間が広がる。山の斜面を斜めにジグザクに降りる。トットミロと呼ばれている放牧地だ。下りきると珍しく澄んだ水が小さな川となって流れている。澄んでいるのは伏流水だからなのだろう。草地には家畜が放牧されていた。歩きやすいようにおかれた石をたどって対岸に渡る。

R0011438a.jpg 石の形状が凸凹しているのでバランスを失いそうになったが、ストックのおかげで無事に落水することもなく渡りきる。この美しい緑に溢れた草原も8月を過ぎると一気に枯れていくそうだ。短い夏を一気に満喫するような見事な美しさだ。
草地に踏み込まれた家畜道を進む。以前は池塘だったのだろうか、踏みしめるたびにクッションがきいて心地よい歩みになる。草地が終わり、ほとんど水平に近い道をしばらく進む。11時過ぎには再び草地に出る。左手にはナンガパルバットの山稜が綺麗に見えるようになる。右手正面の岩陵に沿ってメスナー・ルートが頂上に続く。そのずうっと左手稜線の裏側に韓国ルートがある。見るからにメスナールートは厳しそうだ。云うまでもなくメスナーはアルパインスタイルの登山を超える無酸素登攀を確立した超人登山家だ。超困難なルパール壁を無酸素で初登頂したが、弟を失っている。 ピークハントはベストが5,6月。今年はまだ誰も登頂を果たしていないそうだ。日本人のグループも以前ヘッリンコッファーから登頂を目指したが残念ながらBC3地点までで雪崩に非業の死を遂げた。そのメモリアルが残されている。

ナンガパルバットをアラウンドするルートもあるそうだ。このままこのルートを進めば、4000Mを超える峠を2カ所越してフェリメドに至る。一周するのには18日間の行程だ。日本を出るまでは周回するルートがあることを知らなかったため、南面と北面をそれぞれ見るルートにしたが、周回するのも楽しいルートとして話題になっていたら今回の計画も違ったものになっていたかもしれない。

11時にはラトボに到着する。ここはルパル(3530M)の夏村で家畜の放牧地になっている。左手に今までにない広大な草地が拡がり、右手前方斜面に沿うようにボツンポツンと管理小屋が点在している。この草地が今日のテント場になる。右手にはナンガパルバットのピークが雲間から時々顔を覗かせ始めた。山肌には純白の雪が積もっている。薄汚れた雪景色が夏山と思っていたが昨晩の悪天で新雪が積もったのだろう。燦々と太陽の日差しを受けて白銀の燦めきが眩しい。日は差しているが、3000Mを超しているので肌寒い。ナシーヌさん達は我々より早く到着して幕営もし、昼飯の準備をしてくれていた。今日の行程はここで全て終了、のんびりした行程だった。午後はゆっくりあたりを散策することにする。

昼飯の準備が出来るまで右手上にある氷河湖に行く。右手の急斜面を一気に登ると眼下に氷河湖が視界に入る。まさにモレーンが突堤の形で水を堰き止めているのだ。ヒマラヤでは各地にある氷河湖が温暖化の影響で水量が増し、堤防役を果たしているモレーンが水圧に耐えられなくなり決壊するリスクが高まっていると言われている。確かヒマラヤのどこかですでに洪水で多くの死者と集落が破壊されたというニュースを聞いたことを思い出した。日本の学者がエベレスト・カラパタールでその研究をしていると聞いたこともある。きっとここでも同じリスクがあるだろう。

氷河湖は現地語でジールと呼ばれている。氷河湖特有の白濁した水に満たされている。山羊を連れた子供達が不思議そうな顔をして目の前を通り過ぎていった。

戻って昼ご飯をすませ、一息入れてから夏村に行ってみた。広々とした草地を進むと子供、青年達がクリケットに夢中になっている。野球のルーツとは聞いたが、想像もつかないゲーム展開だった。イルファン君は大学時代に嗜んだと言うことで早速仲間入り。さすがに昔取った杵柄、お見事なプレーぶりに地元の連中は唖然というか感心していた。

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草地の先には左手に真っ白な雪に覆われた山(トシャイン=63154m)そして真っ正面にも大きなピークが太陽を背に輝いている。右手にはナンガパルバットのピークが足早に通り過ぎる雲間からのぞく。


DSC_3731a.jpg 草地に携帯椅子を出してのんびり日向ぼっこ。雲の流れにナンガパルバットの姿が一刻一刻変わって行く風景はスクリーンに映し出されるシーンとして無意識の中に入り込んでいった。ふと気がつくと足下には太陽の日差しが届かなくなり肌寒さが増していた。5時半西の稜線上から強烈なエネルギーを送り続けた太陽が去っていく。その一瞬の輝きはいつも美しいものだ。

連日楽な行為になっているが、テントに入ると睡魔は簡単に襲ってくる。今晩は満天の星の中安心して熟睡できそうだ。


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