トロンタンからチェラムへ
10月30日(月)
トロンタンにある番屋には中年のご婦人が常駐している。彼女ともう一人の男とでこの小屋を維持しているらしい。
いよいよ装備を高山対応に切替、半ズボンから長ズボンにウインドブレーカー、そして帽子や下着も羊毛製にする。朝の冷え込みも今までとは違った冷え込みだ。霜が降りている。ここは谷間なのでなおさらだ。8時40分出発。両側から迫った谷間をシンブワコーラを右手に見ながら進む。この一帯は樹林帯になっている。水が豊富で苔むしたなかを歩いたり、しばしばトレイルに流れ込んだ水の中を歩くこともある。だんだん谷間の空間が広がりを作って開放的な雰囲気に変わる。
ポーター達がはしゃいで木の実を積んでいる。よく見ると背丈ほどの木に濃紺の小さな実がなっていた。房状になっているチャッシー?(ブルベリーではないかと思われる)を帽子やビニール袋に。食べてみたが未だ完熟前なのか酸っぱくてとても美味しいとは言えなかった。12月頃には黒ずんで甘くなるそうだ。それでも彼らにとっては土産らしい。しっかり袋に入れてザックに大事そうに仕舞っていた。
番屋に入るとヤクのチーズが梁からぶら下げられて保存されている。さらにヤク肉の干物が下がっていた。この肉は死んだヤク肉を干して保存食に。必要に応じて茹でて解した後油で炒めて食べるそうだ。高山ではヤクの乳や肉が貴重なタンパク質の供給源になっていることが分かる。ヤクは屠殺するのではなく、自然死したヤクを使うそうだ。あくまでも神の思し召しをいただくと云うことらしい。
日本でいうブルーの防水シートが調理場に早変わり。その上で香辛料、食材、食器などを並べて3人のチームワーク(下ごしらえ、調理人、皿洗い=水汲み)で手際よく料理がされていく。広げた物を再び見事にまとめて1時50分に出発だ。ここからは若干の登りはあるものの長閑なトレイルになる。
ここまで来るとさすがに夜は冷え込む気配。それに備えてシュラフカバー、インナーシュラフ、羊毛の下着、靴下も穿いて寒さに備える。真っ暗な夜空を見上げると日中とはうって変わって満天の星。三日月が出ているので正面のラトンが白く浮き上がって見える。幻想的な雰囲気だ。写真に収めたいくらいだ。高山でのテント生活はどんなに冷え込むかと警戒したが、シュラフに入った瞬間を望めばこんな快適な環境はない。今まで経験したのはロッジ泊まりのトレッキングに比べて、遙かに快適なのが分かった。割高なのが玉に瑕だが。