11月11日
ヒマラヤのピークハントでは午後に襲う強風を避けるために早朝3時に出発して早い時間に下りてくることになる。ライト頼りの歩行だが雪渓なので足下には不安は無い。
この時間帯は太陽の有り難さを実感する。末端冷え性の私は足の指と手の指先が痛くなってくる。特に手の指先は堪える。今回はそれに備えて高山用の3重になった手袋を用意してきたので何とかなるのだが、ストックをしっかり握っていると痺れが出てくる。いろいろ工夫してストックを強く握らない方が痛みが軽減されることが分かった。
後方の稜線から太陽が上がるのだが、空が白みはじめると先陣を切って明けの明星がキラキラと光を放つ。宵の明星はチャンスがあれば見ることは出来るが、明けの明星は相当の早起きが前提なので嬉しいことだ。
明け方のグラデーションが始まる。と同時に天空にちりばめられた星は姿を消していく。選手交代だ。
雪渓はクランポンを付けているのとトレインでの移動が多少不自由な感じがあるが、それ程荒れていないので歩くには気を使わずに先に進める。
太陽が稜線から顔を覗かせると闇の世界が一気に解放されて先に見えるパルドーレンジが確認できた。最後のピーク直前は急峻な登りをユマールで登ることになる。
5400M地点までは順調に登る。日射しも強くなって快適な環境だ。ところがガイドからここで待機して欲しい、先の状況を確認してくるので、とのことだ。理由を聞くとこの先にはクレパスが走っているのとその上で雪渓が融解してガレ場になっているとのこと。
同時のタイミングで私たちより先行して東欧、韓国人のチームが登頂を目指しいた。ガイドが偵察に行った先で彼らと出会った。彼らは数日登頂のトライをあちこちのルートで試みたが、岩の崩落で断念して下りてきたそうだ。
ガイドが戻ってきてこれ以上先に進むのが困難との判断を私に伝えた。一昨年のメラピークの断念、今度も断念すると言うことに断腸の思いがこみ上げてくるがやむを得ない。せめて限界ギリギリまで登って現場を見たくなった。
確かに雪渓を横断するように大きなクレパスが口を開けていたし、落石の音も頻繁に聞こえてくる。納得して下山することにした。
疲労が溜まってくると重力との戦いだから登りより下りの方が堪える。上りでは感じなかった高度感が下りではしっかりと足に伝わってくる。
昼抜きでハイキャンプまで一気に下山した。