8月16日(金)

今日はいよいよポクスンド湖だ。そしてアッパードルパを代表するピーク、カンジローバ(6612M)を見ることが出来るのか、運不運がどうでるのだろうか。


朝5時過ぎにドルチさんから山が見えますよ、ご覧なさい、と声が掛かる。まだ周囲は霧と雲に覆われているが、沢沿い前方の一カ所だけが小さくぽっかりと雲が切れて雪を頂いた山嶺の頭だけがのぞいている。それがカンジローバレンジだ。すぐに雲のなかに消えてしまう。カメラを持ち出してシャッターチャンスを狙う。


(クリックすると大きい画面になります)
7時過ぎには出発する。今日は下る一方。カンジローバは見え隠れしながらじょじょに全容を見せてきた。両側から山が迫りだんだんと切り立った谷間を歩くことになる。8時には左稜線に隠れていた本峰が顔を出してくれる。立ち止まって隠れないことを祈りながらカメラを用意して写しまくる。アッパードルパには7000Mを超す高峰はない。ましてやエベレスト、アンナプルナ、ダウラギリなどの著名なピークもないので被写体としてのピークがほとんどない。そのなかで唯一の美しいピークがカンジローバだ。


しっかり被写体をメディアに残して先に進む。谷間はますます狭くコーラが接近してくる。川面の近くを歩くので沢なりの音でやり取りにも苦労する。9時に橋を渡って左岸に渡る。ここまで降りると白樺の樹林帯になった。湿度の高い環境で日陰にはキノコが生えている。ラクパさんが食材になるか確認したが、ノーという事だった。マッシュルームがとれるそうだが見つからなかった。



9時15分ラクパさんの背中にオンブして右岸に徒渉する。水量も多く急流で深みがあるのではらはらだ。9時30分巨岩が両岸に迫りコーラの水が先を争って下っていく。一見どこを歩くのか見あたらない険しさだ。一人だけ通れる間をようやくの思いで通過する。その先はふたたび徒渉だ。さすがにここは簡単にいかない。大きな岩を探してコーラに投げ入れて足場を作るが急流に流される。場所をかえて可能な場所を探る。9時50分ようやくの思いでラクパさんが先に徒渉して荷物を置いて私を背負いに戻ってくれる。左岸に移る。





このコーラでの徒渉は昨日までで経験した徒渉とは比較にならないほど緊張する、危険度の高いものだ。








10時自力で徒渉して右岸に移る。しばらく下ると谷間は急に広がって右からのコーラと合流する。コーラは広くなった河原を分流していくつにも分かれる。


様相は一変して広々とした河原の左岸を歩く。水が樹林帯にも入り込みトレイルも水没したりする。足場を失い樹林の奥に足を踏み入れなければならなくなる。右手にはカンジローバが望めるはずだが、残念ながら雲のなかだ。


11時ランチになる。12時には出発する。今日は何回徒渉をしたのか思い出せないほどだ。渓谷の美しさは他のヒマラヤでは体験できない景観だった。この繊細な景観は日本の渓谷を彷彿させた。

標高はすでにポクスンド湖(3600M)とほとんど変わらないレベルになっている。トレイルは水平に草地をあるいは樹林帯を歩く。もうすぐ湖岸だ。

雲が切れてカンジローバが見える。氷河から発したコーラが一条の糸のように流れている。遠くにポクスンド湖の水面がエメラルド色に染まって見える。





12時10分橋を渡って右岸に移動する。ふたたび広々とした草地を進むと木の間からヤクが現れる。驚くわけではない、泰然としているが決して気を許している訳ではないようだ。写真を撮ろうと接近するとそろそろと離れていった。ヤクをこの距離で見ると見事な体格に圧倒される。ヤクは毛が抜けないので長くなる。立派な体毛を持っているので4000M以上の高山で生活をすることに適しているが、逆に気温が上がる3000Mより低い場所では生活が出来ない。

1時15分コーラに流れ込む支流をふたたびおぶわれて徒渉することになる。後ろから二人の現地人が勢いよく追い越していった。彼らはシェーゴンパから一気にリングモガオンを目指している。とても自分のスピードと比較というのは奥がましい。彼らはマガール族の人だったようだ。

タルチョーがはためいている掘っ立て小屋があった。放牧に来ている人の番屋だ。老婆が留守番をしている。その前を通り過ぎるとポクスンド湖の最奥になる湖岸に出る。ここが今日の幕営地になる。1時40分エメラルドグリーンの湖面には前方の山が逆さに写っている。午後になるとコーラに沿って吹き上げる強風が吹き始める。岸に打ち上げる波も湖と言うより海のような激しい波が押し寄せる。


ポクスンド湖の語源はレバーの形に類似していると言うことらしい。ポーターたちは枯れ木を集めてたき火を始める。キャンプファイヤーの気分だ。