12月12日(金) C1へ



今日は右手の稜線に上がってパノラマを楽しもう。明日からのシェルパニコルへのトレイルはコーラまで降りて左前方の斜面をトラバースして向かう。三日がかりでコルに辿り着くトレイルだ。何故と思うのだが、ガイドによればそこまでのトレイルは標高が高い上に急峻なザレ場とガレ場の連続で足場の確保が難しいので時間が掛かるとのことだ。

ガレ場の連続、急登が続き、息が切れそうになる。高度を稼ぐに従い風はますます強くなり、体感温度はどんどん下がっていく。カラパタールでの苦い経験から防寒用の手袋で寒さから防御したが、それでも指先に痛みが走る。高度が上がるに従って眼下に氷河湖が確認出来、左手稜線前方の先にヌプチェ、ローチェそしてエベレストが覗く。じょじょにエベレストの全貌が見えてくる。


時々轟音が谷間に響渡る。最初は雷かと錯覚したが、音の感じからは落石ではなく多分雪崩なのだろう。それが頻発する。

(谷の奥にようやく見ることが出来たエベレスト=右手、その左にローチェと右手手前がヌプチェ、そしてその左側手前にアイランドピーク)
ここからのエベレストはカラパタールやゴーキョから見慣れた姿とは全く異なる山容だ。11時に稜線上に立つ。耳を塞ぎたくなるように轟音が唸りを上げて吹きまくる。稜線での強風は登頂成功にとって最大の敵の一つと聞くが、このあたりですらそれを実感するほどだ。


(ローチェとヌプチェ、アイランドピーク)
ここからのパノラマは素晴らしい。マカルー、遠くにエベレスト、ローチェ、ヌプチェが一塊になって、そのすぐ左手手前にアイランドピーク(6160m、雪山でピークハントの初級コース)が並び目を左に向ければ今日までの辛いトレッキングでの憩いでもあったネパウ、チョモラン、ゲルジェンピーク、ピーク4が一望できる。

(エベレスト)

この先C1まで足を伸ばすかどうか悩んだが、パノラマには大きな変化がないと聞き、一息入れてくだることにする。標高は5400mぐらいか。


下り始めて分かったことは想像以上に急登だったということだ。下りは身体に大きな負担を掛けるのでそれが実感される。

一気に高度を下げて草地に出た。12時半ここで今日のランチになる。ドルチさん手作りのおにぎりとリンゴ。いつになく食欲があった。おにぎり二個を一気に平らげる。素晴らしい山容を満喫できたお陰かもしれない。そして明日からのチャレンジを前に体調が良好だとの証に安堵した。

今日の天候からは明日以降の悪天候を予想する気配は微塵もない。下りではうっかりトレイルを外すこともあったが単純に下を目指せばいいので気楽だ。

眼下にロッジのあるマカルーBCが見え、さらに下ると我々のテントも視界に入った。

キャンプサイトでは夕餉の準備中。チャイを飲んで冷え切った身体を温める。ここには低草木しかないが、ポーター達はあちこちから枯れ枝、枯れ葉を集めて焚き火をしている。



マカルーの南面には夕日がさして赤々と燃えている。稜線の陰が徐々にマカルーの頂上に向かっていき、最後は灰色のマカルーに、そして黒色に変化していく。

夜になると昨晩と同様に風が強くなる。まるで風神が頬に思いっきりため込んだ風を一気に吐くように吹き出す。風の固まりがとんでくる感じだ。テントがバタバタと音を立てる。飛ばされるのではと恐怖が走る。しばらくすると静寂の世界に。それを繰り返す。
そういえば昨晩も炊事、食堂になるテントは家型の形状なので風には弱く、何回も崩れて眠れなかったとドルチさんはぼやいていた。今晩もきっと大変な事態になっているのだろう。

明日の天気に不安と期待が交錯するなか睡魔に負けて夢路についた。