8月11日(日)

今日は一日レストデイだ。それなのに天気は快晴。テント裏の崖上では数頭の馬が繋がれている。キャラバンの準備をしているのだろう。

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移動日の不安定な天候と比べて今日の快晴は悔しい思いも湧いてきたがものは考えよう。レストデイが天候悪いとテント内に監禁されて手持ちぶさたになる。そう考えればレストデイの晴れは歓迎といえよう。

幕営地はコーラの河原で道に面しているので人通りが多い。近くではロッジの建築中で作業人が行き来している。

天気もよく、仲間たちは洗濯をしたりのんびり寛いだりしている。私はガイドのダワさん、ラクパさんと一緒に丘の上にあるゴンパを訪ねる。ドゥ・タラップは山岳地帯としては広大な耕作地があり、水も豊富なので農業が盛んだ。大麦、ジャガイモ、小麦、そばが青色の絨毯を広げている。


ゴンパは鍵がかかり中を見ることはできなかった。何度も大声で呼びかけるが全く反応がない。雑草が生い茂り、ここで修行が行われているのかといぶかるほどだ。ゴンパは苔むして歴史を感じさせる。ダワさんになんで人っ気のない状態なのか聞くと、ゴンパはラマ、修行僧たちの祈祷と修行の場であって信者は年に数回お参りする程度とか。そうなのかと頷いた。

幕営地に戻ろうと集落に入ったら前方から若い女性(10代後半か)が近づいてきた。ラクパさんが気軽に声をかけてなにやらやり取りをしていた。彼女はムスタングから親戚の家に来ているそうだ。様子から想像するとチベタンティーが飲みたいのでバッティーを教えてもらっているようだ。


そんなやり取りの後、彼女は自分の目的をとりあえず棚上げして親戚の家に我々を案内してくれた。家に一歩を踏み入れると暗闇だ。中に進むと囲炉裏を囲んで家族がいた。早速チベタンティーを所望する。残念ながらここのチベタンティーは薄めで期待したものではなかった。

今でも分からない、この家がバッティーなのか、無理矢理お願いして普通の家庭に入り込んでチベタンティーを所望したのか、後者だったら申し訳ない気持ちが残った。でもガイドたちの振る舞いからはこのようなやり取りはネパールでは普通なのかもしれないし、貴重な金(300ルピーだった)が手にできるので歓迎なのかもしれない。

時間があるのでドルチさんも思いっきりご馳走を作ってくれる。昼飯はマトン肉を仕入れてタマネギ、ピーマンとの串焼きを作ってくれた。しばらく肉料理はなかったこともあり、格別美味しかった。それとジャガイモのコロッケをとんかつソースをつけて食べる。それに乾麺の冷やしうどんを大根おろしのつゆで食べる。至れり尽くせりの料理だ。

午後は日向でのんびり昼寝をしているとニューヨークからの3人のパーティーが通り過ぎていった。久しぶりの外国人だ。夕食はマトンカレーだった。これも絶品。ご馳走様!

テント生活が長くなり、枕代わりにしている荷物がどうも合っていないようだ。右首筋が強烈に痛み、目が覚める。テントから出て柔軟体操をする。何度かその痛みが気になって目が覚めたが、疲労が勝って眠りにつく。

8月12日(月)

ドゥ・タラップからコーラに沿って下ると我々がトレッキング後半で目指すデュナイに向かうトレイルがある。そちらからだと、シェーゴンパ、ポクスンド湖を経由しないので(行くとしたら下に下りてシェーゴンパまでの往復が避けられない)我々はこのままコーラを遡上してまずはトキュを目指し、シェーゴンパ、ポクスンド湖を目指す。

シェーゴンパまでは5000Mを超すバンジャンを2回、4900Mのバンジャンを一回越えなければならない、日程を考えるとここを確実に3日で越えたいとガイドからの話だった。無理のないスケジュールだろう。ただこの先2週間のトレッキングという長丁場はなかなかタフだ。昨晩、ダワさんから馬を借りて体力を温存することも検討しましょう、と助言があった。

体力温存は喫緊の課題だし、ホースライディングも面白そうだ。ということでシェーゴンパまで馬を雇うことにする。朝方ラクパさんがその段取りのために集落に出向く。馬の持ち主と馬子が馬を引き連れて下りてきた。馬といっても力強そうな馬ではなく、ロバといわれても通用するがたいだったので不安になる。ラクパさんにそれを尋ねたが、全く問題ないとのことで一安心。

ところで馬を借りる費用を尋ねたが、なんと400ドルで馬子の食事持ちだった。ここに来て大きな出費になるがやむを得ない。

あぶみに足をかけるのに苦労する。登山靴なのでサイズが大きく、あぶみになかなか先が入らない。そのうちに馬が突然暴れ出す。馬子という男は俄仕立てで馬の扱いに慣れていないことが判明。むしろラクパさんの方が上手にあしらっている。そういえば鞍をつけるのもラクパさんがほとんどやっていた。


はじめての馬上からの景色、新鮮な世界だ。しばらくはコーラに沿って平坦なトレイル、周囲は広々とした畑が広がっている。次の大きなガオン、トキュ(4200M)までそれが続く。8時に出発したが、しばらくすると学校に登校する生徒たちが三々五々ユニフォームを着て歩いてくる。当地ではユニフォームもネパールで普通に見られる制服とは違ってチベット仏教を反映したラマの服装に似せている。というかそのものかもしれない。

   (学校)

   (診療所)
道筋には仮設のテントが数多く張られている。遠くから出稼ぎで、物販やバティーの商売をしている。ダワさんが突然親しげに近づいていって握手をしていた。なんと我々のパーティーの出身地であるマカルーの人だ。お互いこんな偶然にびっくりしている。そこでチベタンティーを飲んで一息入れる。

右手丘上にガッカールタンガル・ゴンパがある。ここも草むして荒れ放題だが、声をかけたら若い青年が出てきた。彼はこのゴンパのラマではないが修行をしている最中だ。ラマをしている父親の後を継ぐつもりだと言っていた。鍵を開けてもらい中を見せてもらう。







9時20分トキュのガオンに入る。町を通り過ぎ町外れでゴンパが左手に見えた。高山特有の強烈な日差しがさして汗だくになる。この一帯では珍しい立派なストゥーパが並んでいる。ここでも中には入ることが出来なかったので9時40分離れる。


トキュからはトレイルは二つに分かれる。一つはジャンタ・コーラを遡上してサルダンに向かい、ぐるっと回ってシェーゴンパを目指すか、我々が選んだ左手にあるコーラに沿って遡上し、その先でヌマラ・バンジャン(5143M)を越えるトレイルだ。

このトレイルは最近整備されたルートで、サルダン経由よりは相当楽になっていると聞く。新道は地図によってはマイナー扱いになっていた。旧道では胸まで浸かって徒渉したりもしたとラクパさんが経験談を話してくれた。



まだなだらかな登りの連続で馬上でも腰や足が痛くなるようなことは無いが、さすがに尻のしびれと汗に悩まされる。高山植物が咲き誇っていて美しい。右手コーラの先には朽ち果てたゴンパやチョルテンが望める。しかし、人気を感じさせない。すでに無人化してしまったのだろうか。

馬子は徒渉でしばしばびしょ濡れになっていたが、馬上の私は幸い濡れることはない。

11時15分にランチそして1時には出発する。だんだん谷間も山が迫って狭くなり傾斜もきつくなる。高度を稼ぐと高山植物が一睡の隙もないほどに咲き乱れて黄色、紫、白色で織られたグラデーションに染められた絨毯が広がった。単調なトレイルが淡々と続き、3時には幕営地のヌマラ・フェディに着く。




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